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第2回情報広告研究会 開催レポート
【講師プロフィール】
高橋朗
1965年生まれ。ネット&コミュニティ研究所主席研究員。学生時代から精神病院で働きながら、心理カウンセラーを目指す。24歳の時に突如マーケティングに目覚め、コンサルティング会社に入社。以来16年にわたってマーケティング畑を歩み、様々な業界トップ企業のマーケティング戦略策定に参画。わかりやすい語り口と圧倒的な面白さで評判の高い新時代コンサルタント。トヨタ自動車のレクサス日本市場導入プロジェクトに参画した経験を持つ。「誰も教えてくれないカイシャの謎」「自分ブランド化計画」「あなたがお金持ちになれない50の理由」など、ブランディングをテーマにした書籍も多数刊行している。
-INDEX-
■テーマ:「ブランディングと広告」
■ブランドとは何か?
■レクサスとカローラの違い
■ターゲットの価値観が重要
■ブランドコンセプトとは何か?
■ブランド・コンセプトの構造について
■レクサスのブランド構造は?
■ベンツ、BMW、アウディの違い
■ブランドは時間が経てば経つほど価値が高まる
■ユニクロはブランド?
■一人ひとりの生活者の声に耳を傾ける
■日本人の価値観を9つに分ける
■ブランドは、生活者のことを良く分かっている
■普通の広告と、ブランド広告は真逆のもの
私はマーケティングに関わるようになり、30年近くが経ちました。始めた頃は、大企業にもマーケティング部のない時代で、マーケティングというと「アンケートですか?」「宣伝ですか?」という答えが返ってくるような時代でした。当時、ブランドといえば、「シャネル」のような高級なアパレルブランドを指していたんですね。「マーケティング」「ブランド」という言葉がとてもぼんやりしていた時代でした。今では、「マーケティングとは?」をいちいち説明しなくてもご理解いただけるような時代になりました。「ブランド」についても、昔と比べると理解が進んでいます。でも、「ブランドとは○○である」とすぐに説明できる人は少ない。なんとなくぼんやりとは分かるけど、という感じ。ですので、今回は「ブランドとは何か」という話からスタートさせていただきたいと思っています。
ブランドと聞くと思い浮かぶワードとしては、「高級」でしょうか。ディズニーはブランドだと思うんですが、ディズニーは高級というわけでもないですよね。じゃあブランドって、世の中の人が知っている「有名なもの」のこと?…いや、そういうわけでもない。例えば、パテックフィリップという腕時計ブランド――僕は今まで知らなかったんですけど、安くても何千万円、大体の商品が億を超えるそうです。ブランド力がないとその金額で買わないので、ブランドはあるんですよね。じゃあ有名なの?と言われると、庶民にはほぼ無名といってもいいんじゃないかと。ブランドは、有名とも限らないということですね。じゃあ、「歴史が長い」ということか?いや、そうとも限らない。例えば、iPhoneは誕生してから10年も経っていない。でも、iPhoneはブランドですよね。そうなると、「ブランドってなんだろう?良く分からない!」となるのも当然のこと。今日の研究会では、そのブランドとは何か?を少し明らかにできればなと思っています。
私がマーケティング戦略に携わったレクサスは、ブランドです。同じトヨタが作っているカローラも、ブランドです。では、レクサスとカローラは何が違うんでしょうか?当然、お値段も性能も違うけど、ブランド的にどういう違いがあるのかについて見ていきましょう。レクサスとカローラの決定的なところは、ターゲットの違いにあります。ターゲットは、ブランドにとってものすごく重要な話。以前、ある食品メーカーから、「この商品をなんとかしたいんです」と相談がありました。「この商品のターゲットはどこですか?」と聞くと、「主婦です」と一言。「主婦の中にも色々な人がいるじゃないですか」と聞くと、「30~40代でお子さんがいて…」と続けます。「その中でもどういう方がターゲットなんですか?」と問うと、その先がないんです。「そういう人たちが全部ターゲットです」という答え。この状態では、何が何でもブランドにはなり得ません。普通の商品にしかならないんです。普通の商品って、似たような競合がたくさんあり、そして絶対に価格競争になるんです。そうなるともう価格競争で安売りしていくしかない。究極に利益を削っていくという作業しかできないんですね。もっとターゲットを深堀しないと、他社との差別化が図れないんです。ターゲットのスペックだけでなく、「どういう価値観の人たちに買ってほしいか?」というところを探らないといけないんですね。
「その商品に、どんな価値を期待しているのか」は、ターゲットによって異なります。それを提供していくのがブランドの役目なんです。特定のターゲットというのはつまり、特定の価値観を持っている人たちのことを指します。オリジナルの価値を提供し続ける、ということを約束する事象のことをブランドと言うんです。しかも、「約束します」と一方的に言っただけではだめで、一定数の誰かと約束を交わす、双方の関係が成立してはじめてブランドと呼びます。他の競合と同じような価値しか提供していない状態はブランドではありません。大半の商品はこういう状態なんですね。商品がどうこうという前に、ターゲットは誰なのかを定めることが重要です。
またレクサスの話に戻りますが、レクサスは高級車に分類される車です。「高級車」に属するブランドはいくつかあります。メルセデスベンツ、BMW、アウディ…など。車に興味がない人にとっては、これ全部、ほとんど同じ性能の高級車、というイメージしかありません。車に興味がない人たちというのは、このブランドにおけるターゲットではないんですね。「車にそれだけお金を出してもいいなぁ」と思える人がターゲットです。高級車ブランドはそれぞれ、何が違うのか?どんな価値を提供しているのか?価値というのはつまり、体験、生き様みたいなものです。ブランドコンセプトって要するに、体験、生き様のことを言っているんですよ。あるとき、僕らはトヨタから「ブランドコンセプトについて研究してほしい」と依頼を受け、予算2億円を使って、1年間にわたり世界中の色んな業界、有名の成功しているブランドの分析をしたんです。贅沢な経験ですよね(笑)。それで分かったのが、このブランド構造です。
成功しているブランドには、5段階のコンセプト構造を明確に持っているという共通点がありました。下から見ていきましょう。「スペック」は、どんな商品なの?ということ。「物理的ベネフィット」は、そのスペックがあるからこそ、どんな利便性があるの?どんなお得があるの?ということ。「心理的ベネフィット」は、その利点があるから、どんな気分になるのか?ということ。「パーソナリティ」は、そのブランドを擬人化したらどうなるの?ということ。そして「フィロソフィ」は、その商品、ブランドが世の中に必要なの?どんな存在意義があるの?ということです。上に行けばいくほど、重要性が高くなります。メーカーから「この商品なんとかしてほしいんだよね」と言われるケースは大半が、「パーソナリティ」と「フィロソフィ」がないんです。この2つがないと、競合はとても真似しやすくなってしまうんですね。なぜなら、「パーソナリティ」と「フィロソフィー」は真似しにくいから。この2つまで真似してしまうと、完全パクリになってしまって、裁判沙汰になります。でもこの2つ以下までは、どんなに似通っていても裁判にはならない。だから、この5段階をきっちり作りましょう。これを作った時点でブランド戦略は9割くらい出来上がったも同然です。
こちらの図がレクサスのブランド構造です。勘のいい方は、「これ自動車のコンセプトなの?」と思われるかもしれません。一見、自動車のコンセプトっぽくないですよね。なぜなら、トヨタはレクサスを作ったときに、車を売る気なんてサラサラなかったんですよ。車なんかついでなんですよね。「車」じゃなくて「接客」を売っているんです。これからいよいよレクサスを日本市場にお披露目するという段階で、トヨタの代表は社員を集めて、「レクサスは車を売るんじゃない、サービスを売るんだ」「我々は車メーカーだけど、レクサスはサービス業だ」と幾度となく力説していたんです。車だけで勝負できないんですね、この高級車という世界では。だからこのブランド構造の中身も接客のことなんです。「レクサスを買いたいな」という人たちって、ちゃんと接客をしてほしいという気持ちを持っているんです。レクサスのオーナーはトヨタにこういう接客を求めているし、オーナー自身も同僚や親戚、友達を車に乗せるときに、私の車にどうぞお乗りください、という気持ちを持った人たちなんです。車に派手さを求めているんじゃなくて、おもてなしを求めている人たちなんですね。
ベンツは、こういうコンセプト。レクサスとベンツはコンセプトがかぶっていません。全然違うことをやっているんですね。他のブランドも同じ。ターゲットが全部違うんですよ。ターゲットが違うということは当然、中身も変わってくる。「体験」とか「生き様」というのは、こういうことを指しています。次にBMW、アウディを見てみましょう。
この2つ、似ているところが多いですよね。違うのは上の2段だけ。そこが全然違うので、ブランドもターゲットも異なるんです。BMWは男のブランドなんですよね。一方アウディは、男に限定しない、むしろ女性寄りに近い。買う人も異なってくるんですね。ブランドコンセプトを立てると、自分が何をしなくてはいけなくて、何をしたらダメなのかも分かってくるんです。
特に上の2段、「フィロソフィ」と「パーソナリティ」が出来上がっていないとブランドになりません。2段がなければ、それは普通の商品にすぎないのです。普通の商品は、発売から時間が経てば経つほど、陳腐化して価値が低下します。最終的には価値がゼロになって、終売になる。一方、ブランドは時間が経てば経つほど愛着が深まって、価値が高まっていく。真逆なんですよね。どちらが得か?といったら、言うまでもありません。
ではここでちょっとみなさんに考えてほしいのですが、「ユニクロ」はブランドでしょうか?…これはとても難しい問題なんです。人によってはブランドだし、ブランドじゃないという人もいます。ブランドだと思う人は、ユニクロのフィロソフィやパーソナリティがパッと浮かぶ人です。そういうのが思い浮かばない人、品質の割に値段は安いよね、というくらいの人は、ブランドだと思っていない人です。フリースやヒートテックのように、画期的素材を買う人には、ブランドになっていません。最近のユニクロでは、マンガやアニメと組んだオリジナルTシャツを販売している面白い展開もあります。あちら側に注目している人については、ユニクロはブランドになっているかもしれません。新素材開発に力を入れていくのか、Tシャツのほうに進みたいのか…今のユニクロは戦略的にどっちつかずになっているので、成長が停滞しているような気がします。
次は、「フィロソフィ」と「パーソナリティ」はどうやって作ればいいのか?という話です。それにはめんどくさいのですが、生活者の価値観を徹底的に研究するしかありません。とにかく地道に研究していくしかないんですね。「アンケートを取ればいいじゃないか」という話になりますが、アンケートをしても表層的な答えしか見つかりません。深いところまで探れない、研究できないんですね。なぜかというと、生活者はいちいち深く考えて生活していないから。質問されても、自分自身のことがハッキリわかっていない、言語化されていないんですね。だから、なかなか生活者の欲求の本質について答えてもらえないんです。だから、こちら側から発見するために、個別インタビューとして、一人ひとり2~3時間もの時間をかけて、こんこんと話を詰めて聞いていきます。すごく時間がかかる作業ですが、これをしないと生活者の本音が分からないんです。中にはグループインタビューを実施している企業もありますが、2時間で5~6人くらいの話を聞く…というのは結局、一人あたり15~20分しか聞いていないんです。何も聞けていないのと同じなので、お金も手間もかかりますが、私は個別インタビューをオススメしています。個別インタビューを実施した企業様からは、「目からウロコだった」「想定していた考えと全く違った」「生活者の気持ちがやっとわかった」と100%満足していただけています。
インタビューの前に重要なのは、「誰にインタビューするのか?」という問題です。まずアンケートで全体的な反応を見て、どのあたりに聞くのかを決めていきます。その中で我々が作ったのは、日本人の価値観クラスターです。1000人くらいの方々にアンケートを行ない、9個のクラスターに分けました。
これはあくまで一つの例ですが…この赤くなっている「新市民」というクラスターが、レクサスのターゲット。レクサスのローンチをした10何年前、「新市民」はわずか2.5%くらいしかいませんでした。たった2.5%でしたが、レクサスチームがここを狙おうと決めたんです。なぜ決断できたかというと、徐々に2.5%の割合は増えると分かっていたから。その想定は見事に当たり、10年経って7.5%に増えました。日本人のクラスターは年々右側のほうへ動いています。日本人全体の価値観がどうなっていて、その価値観を持った人たちが何割いるのかが分かっていないと、ターゲットを決めようがありません。ブランドを作り上げるでは、押さえておくべきポイントですね。
「フィロソフィ」と「パーソナリティ」を開発できたら、次はどう伝えれば良いかという問題です。商品を見て理解してくれよ、というのは難しいもの。なので、広告をしていくわけですね。そこで大切なのは、ターゲットがもらって嬉しい広告をしなくてはいけません。例えば、すでに文言が印刷された年賀状よりも、一枚一枚手描きの年賀状をもらったほうが嬉しいもの。ブランドにとっての広告って、そういうことなんです。でも、一人ひとり対応するのはとても大変ですし、コスト的にも厳しい。なので、印刷された年賀状を送るしかないんです。でもその人なりの工夫や思いを込める必要があります。印刷された年賀状で、何とかしてブランドの魅力を伝えていくんですね。これを、ブランド体験と言います。今まさに「自分だけ理解できた!」と感じさせる体験ですね。お気に入りの洋服、歌手、映画監督を想像してみてください。新しい商品や作品が出てきたときに、「また欲しい服が出てきちゃったな~!」「何度も聞きたくなるようないい曲だなぁ~!」「また俺の好きな映画だなー!」って思うことってありませんか?これです、ブランド体験って。「なんでこのブランド、俺のこと分かってるの?」と思わせることが、ブランドの広告にとってすごく重要なことなんですよ。
普通の広告って、「こういう商品です。分かって分かって!買ってください!」というものですよね。一方、ブランド広告というのは、「私はあなたのこと分かってるよ!」というメッセージなんです。普通の広告とブランド広告って、やっていることが真逆なんです。商品のことを分かってほしい、という思いはどうでもいいんです。じゃあ、どうやって生活者のことを分かっているという気持ちを広告に表現したらいいのか。その正攻法はないんですが…こういう広告は「ダメ」というのは6つほどあります(笑)。それぞれ見ていきましょう。
「やたら露出量が多い。」
TVCM、電車内、街角ビジョン…あらゆるところで目にする広告はダメです。ブランドというのは、特定のターゲットしか狙ってないものだから、あちらこちらに出すとターゲット外の人にも見られて効率が悪いんです。ブランド戦略をやっている人は、特定のターゲットに分かってもらえればいいので、その人たちだけに届けようと努力します。露出度が高いと「ウザい」という印象だけで終わってしまうケースが多いんですね。
「有名人が出ている。」
「商品名しか分からない。」(あるいは”キャンペーン実施中”のみ)
こういうことをやっている限り、ブランドにはなりません。
「情報量が多すぎる」
逆に色んなことを言い過ぎていると、何が言いたいのか分からなくなります。
「続きはWebで」
これは全く意味がありません。最近は減ってきていますが、まず律儀にWebを見る人なんていません。興味があれば、言われなくても見るものですから。
「自社の偉い人の意見に合わせた企画」
実はこういうのが一番多いんですが、偉い人の意見に合わせた企画なんて、絶対に上手くいきません(笑)。
最後に繰り返しますが…重要なのは、「ブランド体験」と「生き様」です!この点を押さえてターゲット設定、コンセプトを作り上げることが、ブランドには必要不可欠なんです。